上田簡易裁判所 昭和34年(ろ)32号 判決 1960年5月18日
被告人 下村文夫 外八名
主文
被告人下村文夫を罰金二万円に、
被告人滝沢寛次を罰金七千円に、
被告人小林清市、同箱山登一、同滝沢陽、同小林正三、同滝沢武兵衛、同高野正夫及び同金井敬雄を各罰金五千円に、
夫々処する。
被告人等において右各罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間夫々当該被告人を労役場に留置する。
訴訟費用中証人真山仁、同土屋はるじ、同掛川つたの、同白井幸江、同山岸かくよに支給した分は被告人小林正三及び同滝沢武兵衛の連帯負担とし、証人長岡房子、同中田楽子、同久保田ふみよ、同上原やよい、同小出恵治及び同宮下モトに支給した分は被告人滝沢寛次の、証人高安次に支給した分は被告人金井敬雄の各負担とする。
被告人滝沢寛次、同小林清市、同箱山登一、同滝沢陽、同小林正三、同滝沢武兵衛、同高野正夫及び同金井敬雄に対し、公職選挙法第二百五十二条第一項に規定する選挙権及び被選挙権を有しない旨の期間を三年に短縮する。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告人下村文夫は、昭和三十四年四月二十三日施行の長野県議会議員選挙の選挙人であり、丸子町の町勢発展の為に自治研究を深めるとの名目の下に、その実右選挙に際し小県郡から立候補した依田敏治の選挙推進母体として、丸子町各地区を支部単位に昭和三十三年十二月九日結成された政治団体丸子町自治研究会の本部役員たる総務の地位にあつたものであるが、別表第一記載のとおり、右依田敏治の立候補届出前である昭和三十四年四月六日及び同月七日の両日に亘り、丸子町大字上丸子四百四番地元製糸こと土屋久方外二ヶ所において、右自治研究会の各支部長若しくはその代理人である高木茂治外二十四名に対し、「選挙事務所開き御通知」と題して、依田敏治選挙事務長滝沢寛次名義で、四月八日午前十時上丸子駅前旧製糸場内の選挙事務所において事務所開きを行うので多数出席せられたい旨記載した選挙運動の為にする通常葉書以外の文書(昭和三四年証第十一号の一及び二)合計約二千六百七十六枚を頒布し、もつて立候補届出前の選挙運動をなし、
第二、被告人滝沢陽は、右選挙の選挙人であり且つ前記自治研究会の腰越支部長として右依田候補の選挙運動者であつたが、右候補者に投票を得しめる為に丸子町腰越地区の婦人会員をして同町東内地区へ、東内地区の婦人会員をして腰越地区に夫々戸別訪問をさせようと企て、同年四月十八日夜丸子町腰越公民館において開かれた右自治研究会腰越支部役員会に出席した滝沢一雄、日野みや子、川合せき等に対し同被告人の依頼によつて臨席した被告人下村文夫と共に前記方法による戸別訪問を説明依頼し、右日野みや子、川合せきの両名は翌十九日朝右腰越公民館において右戸別訪問の目的の下に東内地区から来訪した草間志ずい、竹鼻すぎ子の両名と行き会い連絡し、一方右滝沢一雄から前記同趣旨の説明依頼を受けた清水久子、市川睦枝、中越くに江の三名は同十九日朝右東内地区辰ノ口公会堂に赴いて既に右戸別訪問の目的の下に待ち受けていた深井志な、上神よ志代の両名と行き会い連絡し、かくて被告人滝沢陽及び同下村文夫は、
(一) 滝沢一雄、日野みや子、川合せき、草間志ずい、竹鼻すぎ子と順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、日野みや子、川合せき、草間志ずい、竹鼻すぎ子の四名において右十九日別表第二記載のとおり、選挙人である丸子町大字腰越千百七番地竹花歌子外十名方を、
(二) 滝沢一雄、清水久子、市川睦枝、中越くに江、深井志な、上神よ志代と順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、清水久子、市川睦枝、中越くに江、深井志な、上神よ志代の五名において、右十九日別表第三記載のとおり、選挙人である同町大字東内三百九十七番地深井もと方外八名方を
夫々順次戸別に訪問し、同人等に対し右候補者に投票方を依頼し、もつて戸別訪問し、
第三、被告人小林清市は、右選挙の選挙人であり、且つ前記自治研究会の東内荻窪支部長として右依田候補の選挙運動者であつたが、右候補者に投票を得しめる為に同町東内荻窪地区の婦人会員をして同町腰越地区へ戸別訪問に赴むかしめようと企て、同月十八日夜右荻窪婦人会副会長中村ちよに右戸別訪問の趣旨を説明依頼し、中村ちよはこれを同夜荻窪公会堂で開かれた婦人会役員会に出席した草間弘子、沢山きよ、宮原小文等に相謀り、同人等はこれを了承の上翌十九日腰越地区の公民館に赴き、既に同人等の案内の為に待ち受けていた清水そめと行き会い連絡し、かくて被告人小林清市は中村ちよ、草間弘子、沢山きよ、宮原小文、清水そめ等と順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、草間弘子、沢山きよ、宮原小文及び清水そめの四名において、右十九日別表第四記載のとおり、選挙人である同町大字腰越七十三番地武井力子方外十二名方を順次戸別に訪問し、同人等に対し右候補者に投票方を依頼し、もつて戸別訪問をし、
第四、被告人箱山登一は、右選挙の選挙人であり、且つ前記自治研究会の東内辰の口支部長として右依田候補の選挙運動者であつたが、右候補者に投票を得しめる為に同町東内辰の口の婦人会員をして同町腰越地区へ戸別訪問に赴かしめようと企て、同月十八日夜右辰の口婦人会長真壁幸子に右戸別訪問の趣旨を説明依頼し、同人はこれを了承の上更に箱山ふた美、成沢里よの両名に依頼し、翌十九日朝右真壁幸子、箱山ふた美、成沢里よの三名同道して腰越公民館に赴き、既に同人等の案内の為に待ち受けていた竹内豊に行き会い連絡し、かくて被告人箱山登一は真壁幸子、箱山ふた美、成沢里よ、竹花豊と順次共謀の上、右候補に投票を得しめる目的をもつて、真壁幸子、箱山ふた美、成沢里よ、竹花豊の四名において右十九日別表第五記載のとおり、選挙人である同町大字腰越百十三番地市川りう方外九名方を順次戸別に訪問し、同人等に対し右候補者に投票方を依頼し、もつて戸別訪問をし、
第五、被告人滝沢寛次は、右選挙の選挙人であり、且右依田候補の選挙事務長として、その選挙運動を総括主宰した者であるが、右候補者に投票を得しめる為に同町長瀬の婦人会員をして同町海戸へ戸別訪問に赴かしめようと企て、同月十八日夜長瀬公民館において開かれた長瀬婦人会役員会に臨み、そこに出席した長瀬婦人会会長長岡房子、中田楽子、荻原寿江、森田里意、久保田ふみよ、上原やよい等に対し、右戸別訪問の趣旨を説明依頼し、之を了承した荻原寿江、森田里意、久保田ふみよ、上原やよいの四名は翌十九日朝海戸区公民館に赴き、同所において待ち受けていた荻原忠雄の組分けにより、海戸婦人会員竹中鈴江が荻原寿江、森田里意の両名を案内すべく一方久保田ふみよ、上原やよいの両名は荻原忠雄自身案内することとし、かくて被告人滝沢寛次は、
(一) 長岡房子、荻原寿江、森田里意、荻原忠雄及び竹中鈴江等と順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、荻原寿江、森田里意、竹中鈴江の三名において右十九日別表第六記載のとおり、選挙人である同町大字上丸子千五百八十四番地笠間好江方外七名方を、
(二) 長岡房子、久保田ふみよ、上原やよい、荻原忠雄等と順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、久保田ふみよ、上原やよい、荻原忠雄において、右十九日別表第七記載のとおり、選挙人である同町大字上丸子九百七十六番地柳沢満寿代方外七名方を
順次戸別に訪問し、同人等に対し右候補者に投票方を依頼し、もつて夫々戸別訪問をし、
第六、被告人小林正三は右選挙の選挙人であり、且前記自治研究会の結成及びその後の同会の運営に重要な役割を占めたものであり、被告人滝沢武兵衛は右選挙の選挙人であり且同会の海戸支部連絡員であつたが、両名において右候補者に投票を得しめる為に同町海戸の婦人会員をして同町長瀬へ、右長瀬の婦人会員をして右海戸に夫々戸別訪問をさせようと企て、
(一) 同月十九日朝海戸区公民館前に集合した長瀬婦人会員久保田ふみ代、上原やよいの両名及び荻原忠雄と共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、久保田ふみ代、上原やよい、荻原忠雄において同日前記別表第七記載のとおり、選挙人である同町大字上丸子九百七十六番地柳沢満寿代方外七名方を、
(二) 同月十八日海戸婦人会長真山仁に前記戸別訪問の趣旨を説明して長瀬へ赴くべき婦人の人選を一任し、同人は掛川つたの及び小相沢まさのに、掛川及び小相沢は土屋はるじに夫々連絡し、翌十九日長瀬へ赴いた掛川つたの及び土屋はるじは白井幸江、山岸かくよの両名に案内を依頼し、かくて真山仁、掛川つたの、小相沢まさの、土屋はるじ、白井幸江、山岸かくよと順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、掛川つたの、土屋はるじ、白井幸江、山岸かくよの四名において、同日別表第八記載のとおり、選挙人である同町大字長瀬二千四百八十一番地林広方外十三名方を
順次戸別に訪問し、同人等に対し右候補者に投票方を依頼し、もつて夫々戸別訪問をし、
第七、被告人金井敬雄は右選挙の選挙人であり、且前記自治研究会事務所に常時出入して依田候補の選挙運動に重要な指導幹部たる地位にあつたものであるが、右候補者に投票を得しめる為に、同町沢田地区の婦人会員をして同町石井地区へ戸別訪問に赴かしめようと企て、同月十八日夜沢田公民館において開かれた沢田婦人会役員会に臨んだ上、そこに出席した吉田きみ子等に右戸別訪問の趣旨を説明依頼し、一方被告人高野正夫も右選挙の選挙人であり且右自治研究会の石井支部長であつたが、右候補者に投票を得しめる為沢田地区より来訪する沢田婦人会員と共に、石井地区の婦人会員をしてその案内旁々石井地区内を戸別訪問させようと企て、同月十八日夜石井婦人会長山岸すみにその旨説明依頼し、これを了承した同人は坂野すゞに、坂野は高木サキに夫々連絡し、翌十九日吉田きみ子は石井地区へ赴いて坂野すゞ、高木サキに行き会い連絡し、かくて被告人金井敬雄、同高野正夫は吉田きみ子、山岸すみ、坂野すゞ、高木サキ等と順次共謀の上、右候補者に投票を得しめる目的をもつて、吉田きみ子、坂野すゞ、高木サキの三名において、同日別表第九記載のとおり、選挙人である同町大字塩川二千七百八十二番地田口正子方外十名方を順次戸別に訪問し、同人等に対して右候補者に投票方を依頼し、もつて戸別訪問をし
たものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人下村文夫の判示所為中第一の文書頒布制限違反の点は公職選挙法第百四十二条第一項第四号第二百四十三条第三号に、事前運動の点は同法第百二十九条第二百三十九条第一号に夫々該当するところ、これらは一個の行為にして数個の罪名に触れる場合であるから、刑法第五十四条前段第十条に従い、重い右文書頒布制限違反の罪の刑を以て処断すべく、判示第二の各(一)及び(二)以下各被告人の戸別訪問の点は、いずれも公職選挙法第百三十八条第一項第二百三十九条第三号刑法第六十条に該当するところ、被告人下村の右第一、第二の各(一)及び(二)の各事実は刑法第四十五条前段の併合罪に該当するので、所定刑中夫々罰金刑を選択し、同法第四十八条に従いその各罰金の合算額の範囲内において被告人下村を罰金二万円に処し、被告人滝沢寛次につきその判示第五の(一)及び(二)の、被告人滝沢陽につきその判示第二の(一)及び(二)の、被告人小林正三及び同滝沢武兵衛につきその判示第六の(一)及び(二)の各戸別訪問は夫々刑法第四十五条前段の併合罪に該当するので、所定刑中夫々罰金刑を選択し、同法第四十八条に従いその各罰金の合算額の範囲内で被告人滝沢寛次を罰金七千円に、被告人滝沢陽、同小林正三及び同滝沢武兵衛を夫々罰金五千円に、被告人小林清市、同箱山登一、同高野正夫及び同金井敬雄については各所定刑中罰金刑を選択の上その範囲内で夫々罰金五千円に処すべく、罰金完納不能の場合の労役場留置につき刑法第十八条、訴訟費用の負担につき刑事訴訟法第百八十一条第一項本文、公民権停止期間の短縮につき公職選挙法第二百五十二条第三項を適用し、仍つて主文のとおり判決する。
(弁護人の主張に対する判断)
(一) 被告人下村及び弁護人等は判示第一の文書頒布制限違反及び事前運動の点につき、該頒布文書はたゞ単に選挙事務所開設の通知を内容とするに過ぎず、之を政治団体として適法に届け出でられた丸子町自治研究会の会員に頒布することは選挙運動の準備行為若しくは内部連絡の事務的行為であつて選挙運動ではなく、被告人下村もその為これを許されたものと信じ、又他候補者の同種行為が無制限に為されている事実に徴し、被告人下村がかく信ずることは寔に相当である旨主張するので、この点につき判断するのに、公職選挙法第百四十二条の規定は、たゞ単にその記載自体から選挙運動を目的としていることが明らかに認められる文書の頒布を禁止するに止まらず、検察官及び弁護人がいずれもその論告若しくは最終弁論において有利に援用している「選挙事務所の設置等純然たる選挙事務の連絡に使用される文書は、それが立候補又は選挙運動の準備のための事務的行為と認められる限度で使用される限り、選挙運動のために使用する文書図画の頒布とはみなされない」との判決例(名古屋高等裁判所昭和二六年(う)第五二九号、同年六月十五日言渡、高等裁判所刑事判決特報二七号一一三頁)に徴しても、たとえその文書自体には選挙運動を目的とすることが明らかな記載がなくても、その文書と、その頒布の目的、時期、頒布文書の枚数並びに頒布の相手方等頒布行為の態様とを併せ考え、その頒布が選挙運動と目されるべきものをも禁止する趣旨であることは明らかであつて、之を本件について見るに、本件文書は依田候補の選挙事務所開きの通知を内容とし、政治団体丸子町自治研究会の本部役員たる被告人下村から同研究会の数千名の会員に頒布するとの名目で各支部長若しくは支部長代理計二十五名に対し配布せられたことは挙示の証拠により認められるが、研究会としてその当面の選挙目的遂行のためには、選挙運動の実情を常時把握し、必要に応じて運動を督励する等のため、臨機に幹部を招集する必要があるから、その運動本部たる選挙事務所の開設日時、場所等は当然各支部の支部長その他の幹部役員に予め知らすべき必要があるというべく、本件文書がそれらの者に限つてのみ頒布されたのであるならば、これは正しく選挙運動の準備行為として許されるべきものである。が、それはそれで必要且十分であり、本件の如く二千六百七十余枚を頒布することは、右必要の限度を超えるものであつて、到底選挙運動の準備行為として必要欠くべからざる行為とは云い難い。
而も公判準備における当裁判所の証人下村昭次に対する尋問調書、斎藤茂雄及び白井良則の司法巡査に対する供述調書並びに高野正夫の司法警察員に対する昭和三十四年五月二日附供述調書によれば、右研究会本部事務所においては数千名の会員を擁すると称し乍らその会員名簿も整理されておらず、又会員名簿もなく或いは会員の全く存在しない支部の存することも認められる。
本件文書はその記載文面自体から明かな如く選挙事務所開き御通知と題して一見選挙運動自体を目的としたものではないかの如くであるが、該文書末尾には依田敏治の名の記載もあり、これを見るものをして、依田敏治が来るべき県議会議員選挙に立候補する旨容易に看取し得る文面である。従つてかゝる文書を政治団体たる自治研究会の会員に頒布する為と称して、その実会員以外の者にも頒布する為二千六百七十余枚を前記二十五名に配布した本件行為は、依田候補に当選を得しめる為の選挙運動として公職選挙法第百四十二条の禁止規定に違反する行為と云わなければならず、被告人下村においても、右頒布が選挙運動の為であり、これが右法律違反である旨の認識を有していたことは同人の司法警察員に対する昭和三十四年四月十一日附供述調書によつて認められる。
従つて同被告人及び弁護人等の主張は採用し難い。
(二) 次に被告人等全員の各戸別訪問の点について、被告人等はいずれも、選挙人の家々を戸別に廻つて投票を依頼しても、その家の敷居をまたいで家の中に入らず、外で依頼するならば違法ではない旨信じていたものであつて、違法の認識がないとの弁護人等の主張につき按ずるに、戸別訪問の如き所謂形式犯についても、刑法各本条に規定されるが如き所謂自然犯と同様、その故意の成立には違法の認識を必要とせず、法の不知は原則として故意を阻却しないのであるが、唯例外として自己の行為が法律上許されたる行為であると確信し、且その信じたることにつき相当の理由がある場合は故意を阻却し無罪となるものと解すべきところ、次の如く、被告人等がいずれも自己の行為につきそれが法律上許されたものである旨確信していたものであるとは認定し難いといわねばならない。即ち、被告人等に対する前掲挙示の各証拠によれば、被告人等の各戸別訪問はいずれも選挙人の家の玄関等の入口の外、店先、庭先等で行われ、弁護人等の所謂敷居をまたいで家の中へ入つていない事実、被告人等が殊更右の如く敷居をまたいで家の中へ入らないよう注意している事実、更に被告人等の右注意は右戸別訪問の前日である四月十八日開かれた自治研究会支部長会議において強調されたところの右のように実行すれば違反ではないとの意見に、被告人等が出席していて若しくはその後に聞き合せて同調した為であること等の事実が認められるが、それにも拘らず、前掲挙示の各証拠及び押収に係る選挙中に誰にでも出来る違反にならない第三者の行為と題するパンフレツト(昭和三十四年証第一一号の三)によれば、右支部長会議において各区の婦人会員を動員して各区相互に交流して選挙人の家を戸別に廻ることにつき違反ではないかとの意見が出たこと、その際右パンフレツトが各出席者に配布され、それにもとづいて戸別訪問のやり方に検討が加えられたこと、右パンフレツトの第二項には街頭その他乗物、商店、浴場、理髪店や各種会合で知人と会つた時に投票依頼をすることはさしつかえない旨の記載があるのみで、右の如く各区の婦人会員が殊更に知人の少い地区へ出向いて戸別に廻るに際し、家の中へ入りさえしなければ差支えないと類推解釈しうる説明条項は見当らないこと、被告人等が夫々婦人会員に戸別訪問を説明依頼した際、直ちに、違反ではないかとの質問がそれぞれの被告人に対して発せられたこと、右の如く違反ではないかと思うことの方が一般の常識に合致すると考えられ、従つて被告人小林清市、同箱山登一、同滝沢陽、同小林正三、同滝沢武兵衛及び同高野正夫らの検察官、司法警察員若しくは司法巡査に対する供述調書中右の行為が違反であると知つていた旨の供述記載部分は右の一般常識に照し不自然な供述でないこと、ましてや被告人下村、同滝沢寛次、同金井敬雄はその過去に自ら立候補して選挙運動を行つた経験があることに徴し当然その違法の認識があつて然るべきこと等が認められ、結局被告人等はいずれも前記自治研究会の支部長或いは責任ある指導者の立場にある者として、その頃丸子町に入りこんできた羽田義知派の選挙運動を牽制する上からも、かくすることが必要であつた為前述各反対の声若しくは違反の疑を押し切り、違反であると知り乍ら若しくはその疑を抱き乍ら本件各所為を敢行したものであると判断せざるを得ない。
以上のとおりであるから、この点に関する弁護人等の主張も亦採用し難い。
依つて主文のとおり判決する。
(裁判官 新田圭一)